Chocolat & Akito 2nd Album『Tropical』インタビュー TEXT:渡辺 亨
恋人、兄妹、あるいはただの友達にせよ、息の合った男女の音楽は、常に清々しい。ましてやショコラ&アキトは仲の良い夫婦だから、彼らの音楽は清々しく、しかも晴れやかだ。もっとも、ショコラ&アキトの音楽は、ただ単に耳障りがいいだけのポップではなく、絵空事めいたポップでもない。むしろ2人の日常を愛おしむ気持ちや凛とした生活感が伝わってくるポップであり、世間の風潮に流されまいという静かだが毅然とした意志すら感じられる。この殺伐とした時代に、このような麗しいハーモニーを奏でるデュオがいてくれて本当に良かったと感じているのは、おそらく僕だけではないだろう。

 セカンド・アルバム『Tropical』について本人たちに語ってもらった。

「『Chocolat&Akito』は、あらかじめ音楽的方向性を決めてから作ったわけじゃなくて、あのアルバムを作っている時点では、僕たち自身も“ショコラ&アキト”というものをいまひとつ把握できていなかったんです。ショコラ&アキトを把握できるようになったのは、アルバム発表後のツアーを終えた時点。東京以外の場所では、僕たちとギタリストの清水ひろたか君の3人だけというシンプルな編成でライヴを行ったので、その分、自分たちなりのヴォーカル・ハーモニーやグルーヴを把握することができた。
あとツアーでは、ショコラはグロッケンシュピールやパーカッションを演奏したんですけど、予想以上にリズム感やセンスが良いことに気づいて、ミュージシャンとしての彼女の重要度も高まった。それでツアーを終えた時に、やっと自分たちの中で“ショコラ&アキト”のイメージが明確になったんです。今回の『Tropical』は、その上で制作に取り組んだアルバムな ので、前作とはかなり違いますね」(片寄明人)

 というわけで、今回ははなから「前作よりカラフルでハッピー、だけどせつなくてメロディアス、かつファンキーなアルバムにしたかった」(ショコラ) という。現に『Tropical』には、ポップでありながら、ソウルファンク風味の濃い曲が目につく。とりわけ「チューニング」はドラムスとベースがファンキーなグルーヴを紡ぐ曲だが、作曲者は片寄明人と思いきや、なんとショコラである。

「意外に思われるかもしれませんけど、高校時代はメアリー・J・ブライジやTLCなどが好きで、踊ってたんです(笑)」(ショコラ)

 ショコラは、この「チューニング」を含めて計4曲を作曲している。驚くべきことに、ショコラが自分で曲を作ったのは今回が初めてなのだ。

「僕としては、軽い気持ちで曲を作ってみたらと勧めて、音楽ソフトを彼女のパソコンにインストールしてあげたんですけど、正直言って、使える曲が1曲あればいいかなと思ってた。ところが、ショコラが作った曲を聴いたら、びっくりしちゃって。あとヴォーカルもすごく良くなったと思う。もともと僕はすこし投げやりな感じっていうか、あまり感情的に流されすぎない女の子のヴォーカルが好きなんですけど、今回のショコラのヴォーカルにも、そうしたロック的な感覚をとても感じます」(片寄明人)

「私自身は、自分に作曲なんて絶対にできないと思い込んでいたし、アキトをはじめ、周りにいい曲を作る人がたくさんいるので、あえて自分が曲を作る必要はないと思ってた。でもツアーの時の演奏を誉められたので、楽器を演奏することがなんだか楽しくなって、それで作曲もしてみようと思ったんです」(ショコラ)

 収録曲のうちの数曲は、ショコラと片寄明人のどちらが作った曲なのかにわかには判別し難い。このことは、ショコラにもっとも影響を与えたミュージシャンが片寄明人であることを物語っているようにも思える。

「今回私が自分で曲を作ることができたのは、アキトのおかげだと思います。というのも、2人が一緒に暮らし始めてから今年で10年になるんですけど、この間にアキトからいい音楽をたくさん聴かせてもらったから。私は、住み込みの弟子みたいな存在なので(笑)、多少はましな曲を作らないと、師匠に申し訳が立たない」(ショコラ)

「夫婦というより、まるで双子のよう」と本人たちが語るほど息の合ったヴォーカル・ハーモニー。ヘッド・アレンジに基づく生き生きとしたバンド・サウンド、リトル・クリーチャーズや清水ひろたか、清水一登(キリング・タイム)、BoBo(54-17)といった個々のミュージシャンの創意工夫に富んだ演奏。ジョン・マッケンタイアのミックスによるエッジのあるサウンド……聴きどころは他にもたくさんあるが、最大の収穫はショコラのミュージシャンとしての成長、と言っていいだろう。その意味では、『Tropical』は、真のデュオとしてのショコラ&アキトの姿が刻まれた初のアルバム。前作以上にたくさんのリスナーの耳に届いて欲しい。

TEXT:渡辺 亨