Chocolat & Akito 2nd Album『Tropical』インタビュー TEXT:渡辺 亨
Chocolat & Akito
『Tropical』
2007.02.15 リリース
Victor / アルバム / VICL-62196
3,045 yen(tax in) / 2,900 yen(tax out)

01.ミナミナミ
02.悪魔と天使
03.チューニング
04.アバンチュール
05.ドナドナ
06.防波堤
07.こうもり
08.月火水木
09.ダイナマイト
10.メランコリー



1.「ミナミナミ」

片寄明人(以下A)「これは僕が作曲した曲ですけど、最初にイメージしたのは、スティーヴィ・ワンダーの曲をジェイムス・テイラーが弾き語りしているような感じ。バンドで演奏していくうちに、柔らかくて波音が聞こえてくるようなトロピカル・アレンジになりましたね。清水ひろたかくんのギターと清水一登さんのムーグがトロトロに溶かしてくれます。歌詞はショコラとの共作で、“テレパシー”という単語なんかはショコラのアイデア。ちなみに「ミナミナミ」とは「南の波」って意味です」
ショコラ(以下C)「たとえば昭和の歌謡曲にはよく出てくるけど、最近はあまり見かけたり聞いたりしない言葉ってありますよね?私はそういう言葉、特に外来語に興味があるんですけど、“テレパシー”もそのひとつなんです」
A「この曲のドラムスは、リトル・クリーチャーズの栗原務君。ZAZEN BOYSの向井君も大好きだって言っていたけど、彼はすごくエモーショナルなプレイをするドラマーで、しかも音の揺れや強弱も音楽の重要な要素ということをちゃんと理解している。本当に素晴らしいドラマーだと思います」

2.「悪魔と天使」

A「私が生まれて初めて作った曲です。ア・ガール・コールド・エディという女性アーティストの“Life Thru The Same Lens”という曲が好きで同じようなキーボードのリズムで作りだしたら、途中からなぜか高校生の時に大好きだったメアリー・J・ブライジの「リアル・ラヴ」のイメージが浮かんできて、最終的にはこのような仕上がりに」
A「この曲はリトル・クリーチャーズに演奏してもらったんだけど、ショコラが作った曲だと告げたら、みんなかなり驚いていたね。この曲は8ビートだけど、その中にもクールでファンキーなニュアンスが込められています。ポリスの「見つめていたい」に通ずるような押さえたムードにスライ・ストーンばりなファンキーベースが絡んでくるイメージです」
C「自分が生まれて初めて作った曲を、大好きなリトル・クリーチャーズに演奏してもらえて、なんて私は幸せなんだろうと思った。レコーディングした音源を持ち帰って、自宅で初めて聴いた時、思わず泣いちゃった」
A「ジョン・マッケンタイアのミックスも、この曲の重要な要素のひとつ。というのも、最初は普通のポップスのようなサウンドに仕上がったんですけど、どうも引っかかりがないということで、ミックスをすべてやり直し、あえて一部は歪んだサウンドにした。だからドラムスの音なんかも、最初のものとは全く違っていて、すごくロックしている。かなりアーティスティックなミキシングになったと思いますね」

3.「チューニング」

A「これもショコラが作曲した曲ですけど、初めて聴いた時は、けっこう焦りました。こういうスコーンと抜けたファンキーな曲は、僕が書きたかった曲だから。リトル・クリーチャーズの鈴木正人君も、この曲を録音した時にかなり唸っていて、“これって売れるんじゃない?”と言ってました(笑)ショコラの作る曲は最初のデモから歌メロにハーモニーがついているんだけど、主メロもハーモニーのメロも同格に聴こえるように作られているのがすごいなって思った。僕ら二人で歌うのにピッタリなんです。」
C「私は78年生まれで、しかも高校時代のお友達がダンスをやっていたこともあって、当時流行っていたソウルやジャズ・ファンク系の音楽を女子高生の頃に聴いてたんです。ブランニュー・ヘヴィーズやジャミロクワイ、あとコンピでデヴィッド・アクセルロッドやジェームズ・メイソンなどを。だからこの“チューニング”のファンキーさも、わりと自然に湧き出たものかも」
A「鈴木正人君は、ウッド・ベースを弾く機会が多いけれど、トロピカルではすべてエレクトリック・ベースを弾いています。エレクトリック・ベースを弾く鈴木君の音を聴いていると、いつもモータウンのジェームス・ジェマーソンを思い出すんですよね。そしてこの曲のドラムスは、54-71のBoBo君。彼は、小さめのスネア・ドラムとキック・ドラムとハイハットの3点しか使わないんですけど、僕たちもそのスタイルが好きなので、ここでもいつものように演奏してもらいました。彼の獣を思わせる、鞭のようにしなるプレイと僕らとのコンビネーションが新しい」

4.「アバンチュール」

A「僕が作曲した曲。この曲もリトル・クリーチャーズが演奏してくれてますが、僕としては、こういうメロウ・ソウルな曲を、あえて彼らに演奏してもらいたかった。スパニッシュ・ギターを弾いてくれた青柳君が「なんだかシャーデーを思い出すなぁ」って言ってましたね(笑) 実は、この曲の大サビの部分は、レコーディングの現場で即興で作りました。10分だけ時間をもらって」
C「私は、リトル・クリーチャーズを待たせて、その場で曲を作るなんて絶対にできない(笑)」
A「彼らとは、前作の時よりコミュニケーションがスムーズにとれて、信頼感が強くなった。だからこそ、こういうことができたんだと思う。この曲もミックスが重要な要素で、今回はアルバム全体をアコースティックだけど、音圧や低音が過不足ないサウンドに仕上げたかった。この曲はその狙いを達成するため、最終ミックスまでに3回もミックスをやり直しました。出来にはとても満足してます」

5.「ドナドナ」

A「『Chocolat&Akito』発表後のツアーで神戸に行った時、清水ひろたか君が神戸牛を食べたいと言い出して、3人で一緒に鉄板焼のお店に行ったんです。ショコラはたまに魚を食べるだけの基本ベジタリアンだから野菜焼きを食べたんですけど、僕は上質な肉なら、たまには口に入れてもいいかなと思って、清水君と同じように神戸牛のステーキを食べました。で、食事を終えて、ホテルの部屋に戻ったら、ショコラがいきなりこの曲を歌い出した(笑)。ところが、僕はこの曲を聴いたことがなかったんです」
C「私は、学校の音楽の教科書に載っていた曲なので、昔から知ってましたけど」
A「僕は学校の音楽の授業をさぼっていたからなのか、本当に知らなかった。で、この曲のもの悲しげなメロディに惹かれたので、あとから色々調べてみたんですけど、その時に初めて安井かずみさんが日本語詞を書いたこと、ユダヤ人がナチスによって強制収容所に連行されていく時の様子を歌った曲であること、ジョーン・バエズが60年代に反戦歌として歌った曲であることを知りました。この曲はほとんどの楽器を打楽器だけで演奏しているのがアレンジ面での大きな特徴です。ドラムも音程に気をつかってメロディー楽器のように扱ってます。この曲だけはシカゴでマッケンタイアと3人ですべて作りました。とても悲しい雰囲気のメロディですけど、原曲では勇ましく、“怒り”を感じさせる部分もあるんです。その要素は、ベースラインが立ち上がってくる後半の部分で表現しました」

6.「防波堤」

A「これも作曲はショコラですけど、初めて聴いた時はびっくりしました。高度な作曲術を知らなければ、作れないはずの高級感のあるメロディに」
C「コードの流れに沿ってメロディを探っていったら、自然にこんなメロディになっただけ(笑)。ただ、あとからサビの部分が、アキトが自宅でよく聴いているブラジルのアーティスト………名前は思い浮かばないけど、その人の曲に似ているかも、と思った」
A「誰?あ、ミルトン・ナシメントか。言われてみれば、そうかもしれないね。僕はロバート・ワイアットやGreat3の白根賢一の書く曲を思い出したな。この曲の歌詞は、僕の方からぜひ書きたいと言って、大半を一人で作ったんですけど、曲を聴いた瞬間にすぐにイメージが浮かびました。歌詞の中に“妬み““恨み”“嫉み”という言葉が出てきますけど、現在の世の中には負の感情、闇の感情が渦巻いていると思うんです。そういう状況に対する違和感を寓話的に描いた曲です。「波しぶき」は最初「闇しぶき」と表現してました(笑)エンディングに向けてバンドのみんなの演奏がエモーショナルに盛り上がっていくところは、顔を見合わせての一発録りならではの素晴らしさです」

7.「こうもり」

A「歌詞は2人の共作ですけど、作曲はショコラ。しかもギター以外のキーボードや打楽器系の楽器はすべてショコラが演奏しているので、ショコラのほぼ独壇場です」
C「これまで私は、規制のルールに合わせなければ、作曲はできないと勝手に思い込んでいました。でも、ジョアンナ・ニューサムやデイム・ダーシー、フアナ・モリーナなどのそれぞれに個性的な音楽を初めて聴いた時、“こういう自由な形の曲を作ってもいいんだ”って勇気づけられたんです。で、こんな曲が生まれました」
A「僕には絶対に作れない曲。ただ、赤い橋の上にこうもりを見たというのは実体験で、僕たちの自宅近くにある池の森にはどうやら巣があるようです」

8.「月火水木」

A「僕はロッテン・ハッツ時代からスパイラル・ステアケースやフィフス・アヴェニュー・バンドの曲のようなシャッフル系の曲をたくさん作ってきました。だから今回はその手の曲は控えようと思ってたんですけど、ショコラが作ってきたAメロとBメロを聴いたら、サビの部分を自分で書きたくなって、結局またこういうシャッフル系の曲が産まれてしまいました(笑)
イントロなどのメインとなるのリフを考えたのは、鈴木正人君。まるでゾンビーズを思わせるキャッチーさですよね。彼がこのリフを思いついた瞬間、この曲の音楽的方向性が決まりました。そこから触発されて僕もエンディングのメロディーを書き足した。つまりこれは彼との偶発的なコラボレーションによって生まれた曲で、だから作曲には鈴木君の名前もクレジットされています。2番のAメロ、Bメロでショコラのメイン・メロディーにぼくが書いたコーラスのメロディーラインが重なり合ってくるんですが、二人の個性がよく出ている場面で好きですね」

9.「ダイナマイト」

A「これは僕が作詞作曲した曲。ニューウェーブ・ファンクなイメージで、もしかしたら少しGreat3を思わせる曲かもしれない。リズムが変則的ですけど、最初から生演奏、つまりドラマーと一緒にやることを想定して作った曲。ドラマーは、BoBo君です。彼抜きでは全く違ったグルーヴになったと思います。このアルバムは自分にとって「本当に音質の良い」ものを目指して、アナログテープと24bit/96KHzのハイビット・フォーマットを併用し、音空間にも思い切った隙間を作ることで、サウンドを太く、とても良い音で録ることができた。特にこの曲はその典型だと思う。僕は通常デモ・テープをあえてあまり作り込まないんですど、この曲に関しては、あらかじめ自分でおおまかなベース・ラインを考えておきました。もっとも、僕はベーシストじゃないので、ベースのプレイに関しては制約があって、シンプルにせざるを得ない。でも、それが逆に自分にとって新しいタイプの曲を作れたきっかけになったのかも。とても独創的でオリジナリティある仕上がりにできて嬉しかったですね。」

10.「メランコリー」

A「これも僕が単独で作った曲です。このアルバムを作っている時、アコースティックな弾き語り風の曲が欲しいと急に思ったんです。で、事務所のスタジオですぐこの曲を作り、その場でレコーディングしました。シタールやビートを重ねていくうちに当初よりも、かなりポップに仕上がりました。ショコラのこの曲は僕がひとりで歌ったほうがいいという提案を受け、歌は強く歌ったものを1本と柔らかく歌ったものを2本、全部で3本を重ねています。あえてベースを入れずにサラッとした仕上がりにしましたが、自分では、かなり気に入っている曲のひとつです。今回のアルバムは最初から最後まで、
何かに導かれてるかのように偶発的な要素やメンバーの奇跡的なスケジューリングによって仕上がったんですが、そんな時はこの曲のように即興で作ったものも、パズルのピースがはまるようにピタッと決まるんですよね。いつも作り終わったアルバムに、どこか1点は悔いが残ってしまうものですが、曲、詞、音、アートワーク、PV、etc...すべての面で満足できたアルバムは、個人的にはちょうど10年前に発表したGreat3の「ロマンス」以来です。」