── 「Nostalgia」は、片寄くんひとりで作った曲。これは、もう失ってしまった人に捧げる曲だと思うけど。

片寄 うん。Great 3のマネージャーが死んじゃってね。今年に入って急死しちゃって。

── 篠原さん。

片寄 そう。篠原のために書いた曲だね。

── そうだと思いました。

片寄 自分の中では、そこまで目的をはっきりして曲を書くことって少ないから。

── いつもは、歌詞にどうとでも解釈できるような曖昧さがある。

片寄 そうだね。ぼくのスタイルだからね。曖昧さといっても、ごまかしてるわけじゃないんだよ。そこに想像の余地をおいておきたいんだけど。この曲に関してはむちゃくちゃハッキリしてて。まずあり得ないからね、たとえば〈ボブ・ディランが歌っていたね〉とかそういう歌詞って。普通は思いついたとしても、たぶん歌にはしなかったと思うんだけど、この曲に関してはもうこれしかないだろうなってね。

── なるほど。歌詞については、それ以上語る必要がないな。

片寄 うん。凄くわかりやすいと思うよ。で、作曲的にはカーペンターズみたいなイメージがあって。オレひとりで歌うとすごくウェットになるところが、ショコラの声がカレン・カーペンター的に透徹な……クールっていうか。

── ショコラの声が重なることによって、亡くなった人の魂を鎮めるような印象が加わりますね。

片寄 もちろん彼女もね、篠原のことをよく知ってたし、彼女なりの悲しみもあるんだけど、あえて「ウェットに歌いたくない」っていっていたんだよね。そうしてみたら、ピタッときたし。もちろん悲しい歌なんだけど、それだけじゃないっていう感じに仕上がったのは、そのおかげもあると思ってますね。あとミックスがすばらしいんだよ、これは本当に。

── あれはすばらしい効果だなあ。

片寄 ジョンがEMS VCS3っていう、ブライアン・イーノが使っていたノイズを出すシンセサイザーなんだけど、あれを持ち出して「ソロを入れたい」って。マッケンタイアも篠原のことを知っていたから、思うところがあったと思うし。そこに対して鈴木くんのメロディアスなベースがすごく感情的に絡んでくるところは、ぼくのいちばん好きなシーンでもあるな。




── エルマロの柚木さんの曲ですね。これ、じつはけっこう男っぽい歌詞じゃないですか。

片寄 オレのことをイメージして書いたらしいよ。ちょうど最近、柚木さんと会う機会が多くて、「今、ショコラとアルバム作ってるんだよ」って話をしたら、「じゃあ、俺にもちょっと1曲書かせろよ。プレゼントしてやる」みたいになって。しかも歌詞も書いてきて「片寄の“regret man”なところを歌詞にした」とかいってたんだけど。オレ、くよくよくよくよしてるから(笑)。
いやぁ、あの人は奇才、天才だよね! 「ソニー&シェールみたいなのが1曲あるから、それを歌ってくれ」みたいなことで、レコーディングにも来て。呼んでもいないのに(笑)。歌入れでも、さんざんコーラスのアイディアとか出してったり。コーラスとか気が狂ってるもん。「こんなライン、思いつかないよ」っていうのをいわれて。

── ショコラのふたつ重なっているコーラスもすごい。

片寄 あれは柚木さんが考えたラインだよね。で、オレのハーモニーは、柚木さんのラインがあまりに奇抜で歌えなくて、「じゃあ、もう片寄の考えたのでいいや」みたいになったんだけど。柚木さんはオモシロくて、シーンごとに1回出てきたものは二度と出てこない、っていうのがスタイルなんだよね。よく聴いてもらえるとわかるけど、くり返しの部分とかでもハーモニーがちがったりとか、最初はショコラが歌っているところを、ふたりで歌ったり、オレだけで歌ったりとか。全部のシーンがちがうっていう。

── もうこの全体の雰囲気がたまらなくて……。

片寄 清水くんがこれまた最高のギターを弾いてくれて。トロトロのね。テープエコーの感じもいいしね。

── エルマロの去年出た「FREEZE」のシングルの最後に入ってた曲(「Sweet "F" momories」)も、ものすごくドリーミーな感じで。『2001年宇宙の旅』のハル・9000が歌った“デイジー”みたいな。

片寄 柚木さん独自のドリーミーさ、ってあるんだよね。マーティン・デニーともちがうんだけど、エキゾチックで不思議な時代感っていうか、時代が歪んでる感じ。もう“奇才”って言葉がぴったりだよ。日本のヴァン・ダイク・パークスだと思うね。だからもっと認められてしかるべき人だと思うし。ほっとくと、あの人は鎌倉に隠って「狂気のスケッチ」って名の元に何十曲も書きためているんだけど、そういうことを延々5年も6年もやっちゃう人だから。たまにこうやって機会があったら、いっしょにやって外に引っぱり出したいと思うんだけどね。




片寄 これはさっきの「Kiss Me Black」の兄弟曲みたいな感じで、オレの中では元々、どっちもThe Zombies なんだよね。

── なるほどねー。ああ、いわれてみれば!

片寄 ゾンビーズは昔からすごく好きで、あの独特な感覚っていうのが刷り込まれていて、そこから出てきているものが、この2曲だったりするんだけど。

── “平日感”がよく出ていますね。平日、日常って、ドラマチックなことばかりじゃないじゃないですか、ふたりで暮らしてても。

片寄 まあ、どんよりしているよね、平日って基本的に。

── 生活って淡々としているから、ここで生じたちょっとした淀みのようなものが表れている気がしました。

片寄 そうだね。ドラマチックなことってそんなにないからね。で、曲はなんていうかな……ちょっとこう歪んだドゥ・ワップとか、ぼくね、アメリカのフィフティーズは好きなんだよ。雰囲気でいうとちょっとデイヴィッド・リンチの映画みたいな感じもあるね。

── 「Kiss Me Black」から「Blue Tuesday」までの4曲でひとつの流れが作られている。

片寄 ひとつの流れだね。ふたりのリンチ好きなところが出たっていうか。好きなんだよね、あの感覚っていうのかなあ……。

── で、さっき話した「Fly」が次に来て、そこでパッと場面転換。いっきに視界が開けて。

片寄 そうそう。次は「虹と雨」。