8月半ばの夕暮れどき、青山の大きなビジネス・ビル6階にあるビクターの会議室。いつのまにかベジタリアンを実践していた片寄くんは、ぐっとスリムに精悍になった長身で、アルバム完成の安堵感を漂わせながら、自他ともに認めるGreat 3・フリークのインタヴュアーを迎えてくれた。
 耳心地は柔らかでいて、かなり心の深い部分にまで響いてくる最高のポップ・ソング集『Chocolat & Akito』。そのサンプル盤を幾度となく繰り返して自然に浮かんだ印象や疑問を、ぼくができるだけストレ―トに投げかける。それに対して、片寄くんはこれまでにないほど言葉を濁さず、じつに率直に話をきかせてくれた。うん、シンプルで飾りけがない、ささやかな幸せとひたむきな愛に満ちた名盤には、こんな対話こそがふさわしい。
 さらに、多くのファンが今か今かと待ち焦がれているGreat 3としての活動や、他のアーティストのプロデュース・ワークについてもばっちり訊いているので、ご安心を。ちょっと長めのインタヴュー記事になっているけれど、かなり興味ぶかい内容なので、どうか最後までおつき合いください。あっ、ベジタリアンになってから苦手な玉ねぎ(『WITHOUT ONION』!!)を克服したかどうかは訊き忘れたけどね!(梶本 聡)
── まず、Chocolat & Akitoとしてデュエット・アルバムを作ろうと思いたつまでの経緯は?

片寄 1年ぐらい前かなあ……やろうと思ったのが。アイディアとしてはあったんだよね。2000年に「Veranda」を出したこともあったし、『Tribute To YMO』の「The Madmen」をいっしょにやったりとか。去年、ショコラの『Chocolate notes』のツアーに参加して、いっしょに歌う機会も多かったから、ふたりの声が合わさってくるものに興味があって、「ふたりで出したいな」っていうのは、おぼろげにはあったんだけど。で、去年の9月ぐらいかな? ロンドンにふたりで行ったときに「帰ったら、けっこう時間も空くし、やろうか」みたいな話が出てきて、っていう感じかな。

── いっしょに生活していて、お互いに音楽をやっていれば、「いっしょにやろう」というのは……。

片寄 そうだね。なんてことない自然な流れだったんだよね。

── 自然な流れだろうとは思うけど、あえて実現させるのは意外とありそうでない感じもあるかな。

片寄 夫婦でやっている人は、今はあんまりいないみたいなんだよね。ヒデとロザンナを目指して始めたんですけど。

── (笑)ところで、現在はひとまずGreat 3を休んでいるじゃないですか。今のところ最後のアルバムの『climax』。あのとき、片寄くんの調子はどうだったんですか?

片寄 あのときオレはむちゃくちゃスランプだったねえ……。その前の『When you were a beauty』は、自分の中でも「すごいいいものができたな」っていう感触があったの。メロディの部分でも、自分の基準を満足させるものが書けたし。「これは多くの人に聴いてもらえるんじゃないかなあ」と……また、こう悪いことに期待してしまったりとかして(笑)。それがセールス的にたいして売れなかったから、ガックリしちゃったんだよね、たぶん。その後、曲を書けなくなっちゃって、『climax』のときは、ぼくが主導でもってきた曲っていうのが、ほとんどなかったんじゃないかな。特に賢ちゃんがすごくがんばってくれて。賢一や圭がまずメロディを作ってきたものにぼくがちょっと足したりとか、3人でその場で即興でセッションしながら作ったり。ぼくがメインとなって持ってきたのもあるんだけど、ずいぶん前に書いて未発表だった曲とかだったり。

── ぼくは『climax』も好きなアルバムだけど。

片寄 うん。音がすばらしいと思うし、賢一や圭の曲もすごくいい。

── Great 3って、結成当初から持っていた曲づくりのテーマがずっとあって。もちろん10年間で人間も成長するから、それによってものの見方とか変わるし。曲でいえば、「Bee」とかあの辺から……。

片寄 ああ。変わった気がした? 振り返ってみるとね、自分の周期が5年単位なんだなあ、っていうのがあって。ようするに自分のキャリアは'90年に始まってるんだけど、'90年から'94年まではロッテンハッツというバンドをやっていて、そのあとGreat 3の始めの'95年から'99年まで5年間。『WITHOUT ONION』を出して、そのあとの99年の1年間は曲が書けなかった。そのあとソロ・アルバム(『HEY MISTER GIRL!』)を出した2000年から2004年ってことで、ほんとにびっくりするぐらい周期的に波があって。そういう意味で「Bee」とかは、ひとつの始まりだったんだよね。ソロ・アルバムからの流れで新しく見いだしてきたんだけど、5年経つとだんだんそれを見失ってきて、いつもたいていスランプに落ち入る。で、今年に入って急に新しい波が来たんですよ。2005年になってから、曲がいっぱいできるようになったんだよねえ。

── 今からみると、2000年代前半はどうだったんだろう。

片寄 ソロ・アルバムが最初にあったから、やっぱりシカゴで向こうのミュージシャンといっしょにセッションしたことも大きかったし、あの音楽……彼らがやっている音楽にも、すごく刺激を受けたし。それと自分のポップなもの、メロディアスなものをどう結びつけていくか、っていうことに興味があった。簡単にいっちゃうとそういうことだったのかな。

── 例えばネットをみていると、ファンの間では“シカゴ前/シカゴ以降”みたいな感じで……。

片寄 へえ〜。ああ、そうかもね。

── 「シカゴに行ってからはちょっと……」っていう人もいるし、「むしろシカゴに行ってから好きになった」っていう人もいるけど、その間に1年間活動休止して、あそこが大きなくぎりになっている。

片寄 そうだね。大きなくぎりだったね。オレ、ネットでGreat 3のこと書いてあるのとか、怖くて読めない人だから(笑)。昔からファン・サイトはたまに見るんだけど、そのぐらいで。mixiとかもやってないから……なんかGreat 3のそういうのがあるんでしょ?

── 今朝ちょうど、mixiでChocolat & Akitoのコミュニティができてましたよ。

片寄 あ、そうなんだ。そのコミュニティっていうのも、何なのかよくわからないんですけど(笑)。ライヴのアンケートとかをみると、あのときにファンがある程度入れ替わっているのはたしかだよね。「メロディアスじゃなくなった」とかもいわれたことはあるけど、そうは思わなくて。『When you were a beauty』とかメロディに溢れたアルバムだと思ってるし。まあ、『May and December』はちょっと特殊な、内省的な感じっていうか、地味な印象を与えたかもしれないよね。

── あと、雑多さっていうのかな。そういうものが整理された印象がある。

片寄 はいはい。ああ、そうかもね。それは(ジョン・)マッケンタイアのミキシングの印象もあったのかもしれないね。単純にあれだけいい音を作れる人はなかなかいないよ。クォリティが半端じゃない。

── うん。ほんとにすごい! ネットの書き込みでは「シカゴはもういいんじゃない?」みたいなファンの意見もあったりするんだけど。

片寄 ただ、『May and December』以降、なんとなく“難しいことをやっているバンド”っていうイメージがついたのは不本意だけどね。そういうつもりは全然ないから。オレはトータスの様な音楽を目指したわけではないし、Great 3はポスト・ロックのバンドじゃないと思っているから。ああいうことをやろうと思ったこともないし、やろうと思ってもできないしね。その辺はもう完全に分けて考えてるっていうか。でも実際にそういうふうに言っている人のどれだけが、そのシカゴの人たちの音楽を聴いているのか、って話になっちゃうんだけどねえ。

── 単純にイメージでね。プライヴェイトでは、マッケンタイアとの関係はどんな感じですか?

片寄 友達だね。単純にね。『climax』の後とか、オレが落ちていたのを知ってるから、メールで励ましてもくれたし。今回の『Chocolat & Akito』のレコーディングに関しては、基本的に(レコード会社から)予算をもらって、自分たちでコーディネイトしていくっていう感じだったから、ジョンとの連絡はオレが全部やったし。予算に関してもすごくリーズナブルにやってくれたし。頼りになる友達だよね。しかもむちゃくちゃ耳がいいっていう。あとオレと音楽に関するセンスが驚くほど似てるんだよ。