片寄明人と白根賢一、二人での活動再開を決めたGREAT3ですが、本日9年ぶりの新曲「Emotion / レイディ」の配信リリースを開始、
それとともに脱退した高桑圭に代わる新メンバーとして弱冠22歳の新鋭、jan(ヤン)の加入を発表します。

新ベーシストを誰に頼むのか?それは僕らにとって乗り越えるべき大きな課題の一つでした。
何人もの素晴らしいベーシストの名前が候補として挙げられ、その中の数人とは連絡も取り、活動再開発表後にセッションをしながら
相性を探ってみようと思っていた矢先、白根賢一が僕にポツリと呟きました。
「もちろん、うまいベーシストもいいんだけどさ…シド・ヴィシャスみたいな奴かどっちかだよな…」
「なるほどね…」とその時は笑って流した自分でしたが、彼の言う意味もよく理解できました。
「シド・ヴィシャス=テクニックうんぬんよりも図抜けた存在感ある奴」ということ。
そしてその時、僕の脳裏には電光が走るように一人の青年の顔が浮かんだのです。

まだ今年で22歳になったばかりのヤン。彼と初めて出逢ったのは、94年の2月頃のことです。
東京の街が雪に覆われた、ある晴れた冬の日。もう18年以上前になります。
ロッテンハッツを解散したばかりの僕ら3人は新バンドGREAT3を結成、作り終えたばかりのデモテープに合わせて初の写真を撮るべく集まっていました。
カメラマンは佐藤奈々子さん。彼女は伝説のシンガーソングライター、アーティストととしても有名な女性。
(興味のある方はぜひその素晴らしい作品の数々を調べることをお薦めしたい)
白根と高桑がちょうどその頃、新たにソロとして数年振りにシーンへ復帰した奈々子さんのライブにサポートとして参加した縁もあり、
GREAT3の初写真を撮ってくれることとなったのです。
その時、雪の積もった公園で賑やかに撮影を続ける僕らを、奈々子さんの傍らで静かに見守っていた一人の可愛い少年がいました。
それが今回新メンバーとして迎えるjan(ヤン)、奈々子さんの一人息子だったのです。



ヤンは奈々子さんに連れられ、1995年にGREAT3が新宿パワーステーションで行ったメジャー・デビューライブにも観に来ていました。
彼の遠い記憶の中には少年の頃に観たGREAT3のライブ姿が朧気ながらあるそうです。



そんな不思議な縁で繋がるGREAT3とヤンですが、その後長い間、彼と交わる機会はありませんでした。
僕らが再び出逢うのは2010年、奈々子さんが白金で開いた個展のレセプション・パーティーでのことです。
遅れて到着した僕は見逃してしまいましたが、いつのまにか音楽活動を始めていたヤンはその夜、奈々子さんとも旧知の仲である長田進さんと
デュオで演奏をしたそうで、終演後の会場でギターを片付けていた彼と十数年振りに再会したのです。
記憶の中に残る小さな少年は、その時すでに身長187cm、数ヶ国語を操り、カーリーヘアにオランダ人の父親譲りの端正な顔つきは
まるでデビッド・ボウイやボブ・ディランの若い頃を思わせるような佇まいに成長していました。

その時は軽く挨拶を交わす程度だったのですが、翌2011年の夏、僕は奈々子さんから突然ある相談を受けました。
「数年前から音楽を始めたヤンは早くもいくつかのメジャーレーベルや大きな事務所から見初められ、デビューに向けて何度も動き出してはみるものの、
彼の自由な心を規制の枠の中に押し込めることは難しく、すぐに逃げ出してしまう。今はもう日本のシーンを念頭に置かず自分のやりたい音楽を創るべく
新しいバンドを組んだのだけど色々悩んでいるみたい。片寄くん、一度観てやってくれない?」というのが奈々子さんからの相談。
そして観に行ったのがヤンがVo&Gを担当するバンド、Happy When It Rainでした。
ベル&セバスチャンやギャラクシー500を彷彿とさせるセンス溢れる楽曲とサウンド、そして何よりもヤンの色気ある歌声に魅力を感じた僕は
喜んで助力を買って出て、影ながらアドバイスなどを続けたものの、バンドはメンバーの留学などもあり残念ながら活動を休止してしまったのです。

しかしながらその後も妙に僕になついたヤンは、頻繁に僕の家を訪れてはたくさんのレコードを聴いて帰るようになりました。
母親の影響なのか、彼の音楽の趣味は22歳とは思えないほどに広く、深く、僕のコレクションはそんな彼の刺激となったのでしょう。
今でも忘れられない想い出がひとつあります。
それはニール・ヤングが大好きだという彼に、BOXセット「Neil Young Archives 1」のBlu-rayヴァージョンを聴かせた時のこと。
(このBOXはBlu-rayの容量を基本的に映像ではなく音のみに使用して、まるでスタジオで録られた瞬間そのままのような超高音質が実現されています)
ニール自身がベストな音だとお墨付きを送る、CDやレコードを遥かに上回った24bit/192kHzの生々しい音がスピーカーから流れてきた瞬間、
その鮮烈さに目を丸くして驚きつつも聴き入っていた彼は、感情が抑えきれなくなったのか、いつの間にか黙ってポロポロと涙をこぼし始めたのです。
僕も少年の頃にザ・ビーチ・ボーイズの名曲「Surf's Up」を初めて聴いたときは感動で号泣したっけ…なんて想い出し、その様子を微笑ましく見守りながらも
ヤンのその純粋で豊かな感受性と音質の良さを感じ取れる耳の良さに感じ入ったことが強く印象に残っています。

ヤンのことを皆に伝えたい思いから文章が長くなってしまいましたが話しを戻しましょう。
賢一の言葉を受けて、ヤンが脳裏に浮かんだ僕はさっそく彼を呼び出してこう聞いたのです。
「GREAT3で一緒にやるベーシストを探してるんだけど…ヤン、挑戦してみる気はないかな?」
すると「オレ、ベースほとんど弾いたことないですよ、でも練習してみます」と即答で答えてくれたヤン。
僕らは彼に課題曲を与え、その数週間後、街の小さな練習スタジオに3人で入って音を出してみることにしました。
結果は僕と賢一にとっては嬉しい驚きでした。もちろんテクニックは高桑圭と比べるまでもなく未熟、正直言って下手くそだったのですが、
それでも卓越したセンスとリズム感には目を見張るものがあり、何よりも彼が出すベースの音色、弾き姿や佇まい、それがGREAT3の音楽と違和感なく
マッチする様子に、僕と賢一は演奏中、顔を見合わせてはニヤニヤと笑うばかりでした。
その日スタジオに様子を見に来たスタッフもポツリと「こんなことってあるんだ…」と思わず一人言を言ってしまうほどのはまり具合に、
僕らは即決で夏フェスのサポートメンバーにヤンを加える決断をしたのです。

その後、新作に向けての新曲デモ制作もベースの特訓を兼ねてヤンを交えた3人で行うようになりました。
まず取りかかったのは今日配信した2曲「Emotion / レイディ」。臆することなく斬新なベースラインを提案してくる彼に驚かされつつも、
刺激を受け始めた僕らは、気がつくとどちらからともなく「ヤン…正式メンバーになる気ないかな…」と言い合うようになっていたのです。
やはり「3」というのは不思議な数字、「2」もいいけれど、「3」のバランスの良さ、居心地の良さを僕は実感していました。
お互いの想いを確認した僕と賢一がヤンに相談してみると「ベース超楽しいです。オレでよかったらやらせてください。」と快諾、
正直誰も考えていなかった正式メンバーとしての加入、新たな3人でのGREAT3の始まりとなった訳です。

44歳2人のバンドに22歳の新メンバーが加入…端から見るとちょっと奇妙な流れなことは重々承知していますが、3人の中ではまったく違和感の無い決断でした。
もしかして僕と賢一の精神年齢も未熟なのでしょうか!?今はまるでGREAT3を結成したばかりの頃のように、笑い、音楽を聴き、アイデアを出し合い、
夏の照りつける太陽の下、まるで少年のように楽器を抱え3人で街を歩く日々を楽しむ毎日です。

プロデューサーとしての経験も積んだ今、GREAT3を客観的に振り返ると、あの若さで無謀にも随分と高度な音楽に挑戦してたんだなと感慨深く思います。
今や日本を代表するベーシストである高桑圭こそ当時からテクニック的に完成されていたものの、僕と賢一は色んな面で力足らずだったのかもしれません。
お互いに様々な経験を積み、今になってようやく表現できるようになったことがたくさんあり、自分達でも驚いています。
この年でこんなことを言って笑われるであろうことは承知ですが、未熟だった分、僕らにはまだまだ伸びしろがあるような気がしてならないのです。

昔の曲も、新曲も、今は同じように新鮮に感じられ、演奏することが刺激的で楽しくてなりません。

そしてGREAT3には不思議なマジックがあるのでしょう。お互いに一人では書けない曲が顔を合わせると嘘のように簡単に生まれてしまうことも思い知りました。
今はそこにヤンという作詞、作曲、そして歌うこともできる新たなピースが加わり、また三つ巴として創作に拍車がかかっています。
思えば奇しくも90年代~00年代~10年代と時代の区切りとともに、自分達の音楽キャリアも節目を迎えているように思えます。
デビューから1999年の「I.Y.O.B.S.O.S」までが第一期GREAT3、そして高桑の長期入院による1年の活動休止後「May & December」から「Climax」までが
第二期GREAT3。そして2012年、これが新たな第三期GREAT3の幕開けなのでしょう。

今日配信を開始する新曲2曲も所信表明の思いも込め、あえて他のミュージシャンを呼ばずにヤンを含む3人だけでレコーディングしてみました。
賢一の強靱なビートに、今の自分たちの想いを強く込めた歌詞を乗せた「Emotion」、そしてパンク~ニューウェイヴのバンドがファンキーな曲を無理矢理に
演奏するイメージで制作、ヤンのベースラインも光る「レイディ」。どちらもGREAT3でしか作り得ない楽曲に仕上がっていると思います。
(歌詞を御覧になりたいかたはこちらをどうぞ。)
聴いて頂けたら分かるように、キャリアこそ重ねたものの、むしろ安心感やベテラン的完成度とは縁遠い作品が出来上がってしまったような気がします。
これからニューアルバムの完成へ向けて、きっと日々成長し更新されていくバンドとなることでしょう。
今はただ、一人でも多くの人がこの新たな旅を共に楽しんでくれることを祈るばかりです。

新生GREAT3をどうぞよろしくお願いいたします。

GREAT3 片寄明人 2012年8月1日